沈黙の罰

時計の秒針が淡々と時を刻む音だけが、部屋の中に響いていた。
ソファの上には、一人の女が座っている。
彼女の名は明菜(あきな)。
知的で大人びた雰囲気を持ち、どこか儚げな美しさを持つ女性。
しかし、今の彼女はその端正な顔に余裕の表情を浮かべることはできなかった。
なぜなら――
「……ふぅん、意外と強情なんだな、明菜」
彼女の前に座る男が、ゆっくりと笑みを浮かべながら言った。
一夫(かずお)――3歳年下の男。
彼の目には、冷静さと残酷な遊び心が混ざっていた。
明菜の手首は万歳の格好で縛られ、両足も固定されている。
ノースリーブに近い半袖のシャツを着ているためセクシーな腋の下がむき出しになっている。
まるで捕らえられた獲物のように、彼女は身動きが取れない。
それでも、彼女は毅然としていた。
――そう、少なくとも今のところは。
「何をしようとしているのかは……わかってるわよね?」
低く、震えた声。
「さあ、どうかな」
一夫は楽しそうに目を細め、ゆっくりと手を伸ばした。
指先が、明菜のウエストに軽く触れる。
「……っ」
反応は一瞬だった。
肩がピクリと跳ねる。
そのわずかな動きを見逃さず、一夫は指を滑らせる。
シュル、シュル……
優しく、ゆっくりと撫でるように。
「く……っ」
明菜は歯を食いしばり、声を押し殺す。
「ほう、耐えるんだ?」
一夫は意地悪く笑いながら、指の動きを速める。
「ふっ……く、ぅ……っ!」
息が乱れ、肩が震え始める。
「やっぱり、明菜はくすぐりに弱いんだな」
にやりと笑った一夫の指が、今度は脇腹に這う。
シュル、シュル……クス……クス……
「っ……!? くっ、くく……!」
喉の奥から、小さな笑い声が漏れる。
それを聞いた瞬間、一夫の目が輝いた。
「明菜……笑ったね?」
「……笑ってない……っ!」
強がる明菜。しかし、その表情はすでに限界が近いことを物語っている。
「じゃあ、もっとやるよ」
一夫の指が、さらに滑らかに動く。
スル、スル、スル――
「ふ、あっ……! く、ふふ……! っ、だ、だめっ……!」
彼女の体がビクンッと跳ね、全身が震え始める。
「ふふ、やっと笑った」
一夫は満足げに微笑む。
「次は……ここ、だよな?」
彼は、ゆっくりと彼女の綺麗な腋の下にふれた。
「やっ……! ちょっと待って……!」
明菜の声が焦りに変わる。
「やめ……! 本当にそこはダメ……!!」
だが、一夫はそんな懇願を無視し、指を彼女の脇の下へと伸ばした。
クス、クス……クシュッ……
「あっ……!? ひゃ、ひゃぁっ!!!」
一瞬で明菜の理性が吹き飛ぶ。
「ひっ、あは、ははっ!! や、やあっ、ひぃぃっ!!」
体をくねらせ、必死に逃れようとするが、縄のせいで動けない。
「やっぱり脇が一番弱いんだな、明菜」
彼はさらに指を滑らせる。
「ふっ、ひゃ、や、だめぇぇっ!!くすぐったいぃ! はっ、ひぁぁぁっ!!!うふ〜ん。ふふふふふぅ〜!きゃはははは!我慢できな〜い!くすぐったいぃ!わ、私、腋の下弱いのぉ!!」
笑いながら涙を滲ませる明菜。
「ほら、話してくれればやめてあげるよ?」
「やっ、やだっ!! ひゃっ、ひゃひぃっ!!!くすぐったいぃ!」
一夫は楽しげに、今度は両手で彼女の弱点である腋の下を責め始めると、知的でクールな美貌の持ち主である明菜は半狂乱になり、笑い狂うのであった。
「ひぃぃっ!! だめぇぇっ!! くすぐったいぃ!やめっ、ひゃぁぁぁっ!!!やーっはっははははははっはははははっ、だめーっははっはははははっははははははっ、息っ、息できないーっはっはっはははははははははっははははは、とっ、腋はダメェ~!!くすぐったいぃ!止めてーっははははははーっははははは」
全身が跳ね、背中が反る。
脳が痺れるような感覚。
くすぐったさと絶望感が混ざり合い、思考が崩壊する。
「ほらほら、どうする? このままずっとくすぐられる?」
「はぁっ、ひぃっ……!! く、は、はぁぁっ!!ぎゃーっはっははははっはははははっ、本当にだめーっはっはははははっはははははっ、お願いーーっははははははっははは、とめて、止めてーははははっはははははっは、わ、脇っ、触るのやめてーっはっはははははっはははは、くすぐりいやーっはっははっははははは」
明菜の意識が遠のきそうになる。
「ま、待っ……!! 言うっわ……!! 言うからぁ……!!!」
涙を流しながら叫ぶ明菜を見て、一夫はゆっくりと指を止めた。
「おや、おとなしくなった?」
「……くっ……」
荒い息をつきながら、一夫を睨みつける明菜。
「次があれば、もっとすごいのを用意しておくよ」
「……っ!?」
明菜の顔が一瞬強張る。
この戦いは、まだ終わらない。